研究二年目に当たる今年度は各地で実践されつつある生産情報公開とトレーサビリティシステムの調査によって、情報の管理・表示面ではさまざまな対策が行なわれ始めているが、その多くは消費の現場から離れたところで、パソコンで検索する仕組みとなっており、日常の物理空間と情報空間が分離する結果となっている現状が明らかとなった。 この分離の解消のために売り場ごとに特別な端末を設けることは、言うまでもなく非効率であるが、一方で、携帯電話はインターネットのモバイル端末として、パソコン以上の普及を見せている。尾道ケータイ観光ナビ「どこでも博物館」では、環境保全型の圃場や食品加工工場、有機食材を販売するアンテナショップやバザールに商品コードを発行し、そのコード番号をケータイに打込むことによって、トレーサビリティ情報だけではなく、生産者の顔や心意気、もっと"属人性"をもった農業生産の物語を、文字どおり「モノ語り」としてモノや食材自身に語らせるような仕組みが可能になるとの示唆が得られた。 現在最も普及している表示メディアである紙の認証タグは、印刷・貼り付け等のコストが発生し、情報量も限られる。何より簡単に情報の修正や更新を行うことができないが、携帯を通じて常に情報が更新可能となるシステムは、つねに生きた情報を発信したい生産者にとっても、食の信頼性や履歴に関心のある生活者にとっても有効である。生産情報の公開はモノの「来し方」を、トレーサビリティシステムの目的は払われたお金の「行く末」を知るということであり、このシステムによって消費行動が生産とダイレクトにつながった「リアルタイム」で「共感的」なものに発展していくならば、購買によって生産者を支援するという消費行動の社会潮流を促進することが考えられる。この視点において、最終年度に当たる次年度の本研究の取りまめに通しを得られた。
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