コーヒー・フードシステムの発展は、植民地支配が可能にした安価な原料豆の持続的確保によって支えられてきた。この2世紀半以上も継続した植民地におけるコーヒー生産の歴史が、現代における価格形成制度の「不公正さ」に貢献している。 世界全体のアラビカ・コーヒーの取引において、ニューヨーク・コーヒー取引所で決まる先物価格が、基準価格として利用されている。しかしながらコーヒー「大国」ブラジルにおける生産・流通システムのさらなる近代化・効率化が、アラビカ・コーヒーの国際市場を供給過多の状況に陥れ、さらにはその低価格での安定がゆえに投機家が興味を失い、先物価格は「史上最安値」の水準にある。それゆえタンザニアを初めとするコーヒー「小国」においては、生産・流通システムの非効率性、販売・生産者サイド(小農民や協同組合等)と買付・輸出業者サイド(ほとんどが多国籍企業)との取引力、情報量のあからさまな格差、等と相まって、生産者価格の「史上最安値」が実現してしまっている。世界の2500万人のコーヒー生産者が貧困にあえいでいる。 逆に消費国・日本のコーヒー産業にとっては、安価な原料豆を調達できる恵まれた環境の下にあるが、長引く不況、外資系コーヒーチェーン店の台頭、輸入商社→生豆問屋→焙煎業者→業務需要・小売店といった事業段階間の垣根喪失、等が相まって、競争は激化している。その結果、「低価格追求」コーヒーと「高品質追求」コーヒーの市場の二極分化が進んでいる。後者に特化する業者の場合、生産者価格の低迷→生産意欲の減退→品質管理の緩慢化→高品質豆確保の困難化は、死活問題であると言える。 以上の問題点を解決し得る望ましい「原産国-消費国結合のあり方」として、まずは「南北問題運動」の最大の成果である国際コーヒー協定を挙げることができるが、アメリカの脱退を主因として、1989年以降、機能が停止している。同協定を管理する国際コーヒー機関を中心に、生産者支援基金構想が議論されているが、実現に至っていない。現在、実践されている唯一の望ましい「結合のあり方」として、フェアトレード(最低輸出価格の設定と生産者への利益還元を保証する貿易運動)を挙げるとができるが、普及が進んでない(日本におけるシェアは1%に満たない)。
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