人民公社解体後の中国農村を支えた経営制度は、「双層経営体制」であった。村(集団)と農家(個別)の共同によって、人民公社制度と私有経済での農家制度の中間領域としてデザインされた制度であった。この制度は、農業構造が転換する中で、21世紀を担う制度としての合理性はあるのだろうか。まず新制度経済学を用いて、その合理性について理論的に検討した。その結果、第一に、この制度は個人と集団の情報を最も効率的に利用することができる装置であり、第二に、この制度は、集団が個人からリスクを吸収でき、集団所有によって農業機械を最も効率的にメインテナンスできる仕組みであることが確認できた。したがって、双層経営体制は合理的に存在しているのである。 さらに双層経営体制のもとでは、「村集団経営能力」と「農家経営能力」が発揮されることになる。特に郷鎮企業などで裕福になった富裕村の場合は、「以工補農」という形で村経営能力が発揮される。村経営能力の発揮は均等的な社会サービスとして提供されており、逆に経営能力のある農家のインセンティブをなくしてしまい、農家経営能力が発揮できない状況をもたらしてしまう。この双層経営体制の制度上の問題を、中国農業部農村経済研究センターの農家固定観察点ミクロデータを用いたパネルデータ分析によって実証的に明らかにした。その結果、中国の村と農家には経営能力が特異的に形成されていることが検証された。しかし双層経営体制においては、富裕村では村サービスの平等的な提供によって、農家個々の経営能力はかえって発揮されなくなってしまうという、制度上の問題が明らかになった。21世紀の中国農業を支えていく農村制度は、旧来の双層経営体制ではなく、むしろ農家の経営能力を発揮させる制度、すなわち集団主義よりも個別主義へと転換させるべきであることが政策的に提言される。
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