研究概要 |
本研究の目的は、景観概念の農業認識への統合による首尾一貫した農業の環境便益理論の形成とその応用としての新しい農業技術論の開拓である。その実現のため,今年度は,この統合が実現しているドイツの海外調査を行った。具体的には,横川洋(農業資源経済学),横山秀司(景観生態学)及び研究協力者の佐藤剛史(九州大学大学院,環境保全型農業論),宇根豊(九大社会人大学院生,農業技術論)という学際的なチームを編成し,研究会を行うとともに,バーデン・ヴュルテンベルク州とバイエルン州の調査を行った。バーデン・ヴュルテンベルク州ではホーエンハイム大学で資料収集,ディスカッションを行い,州の農村地域省と農家への聞き取り調査を行った。バイエルン州ではミュンヘン工科大学で資料収集,ディスカッションを行い,州の農林省の聞き取りと景観計画が実施されている農村の視察を行った。 その結果,ドイツの景観生態学では,「農耕景観Kulturlandschaft」が「地生態」,「生物生態」、「農業生産行為」の3要素から構成されていること,農業資源経済学における農業資源の内容を(1)非生物的資源、(2)生物的資源、(3)美的資源の3種類に分類し、農業の環境便益を(1)非生物的資源の保全、(2)生物的資源の保全、(3)美的資源の保全の3種類に分類していること,が再確認された。また,景観生態学に基づく景観計画が景観概念の応用のための重要な手法であることが確認できた。 農業環境プログラムについては,農耕景観を保全するためのバーデン・ヴュルテンベルク州の農業環境プログラムMEKAの原理,目的,内容,展開(MEKAIからMEKAII)が具体的に明らかにされた。成果は,2002年度農業経済学会大会において「任意参加の農業環境プログラムとしてのMEKAプログラム-ドイツ・バーデン・ヴュルテンベルク州の事例-」として報告予定である。プログラムの詳細は,横川洋・佐藤剛史・宇根豊『自然環境を支える百姓仕事を支える政策-ドイツのバーデン・ヴュルテンベルク州の農業環境政策(MEKA)-』農と自然の研究所,2002として公刊した。景観生態学については,横山秀司編『景観の分析と保護のための地生態学入門』古今書院,2002を公刊した。
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