(1)OECD(経済開発協力機構)は、2001年4月、「多面性-分析的枠組みに向けて(Multi-functionality:Towards an analytical frame work)と題するレポートを発表した。その研究-検討は、「分析的枠組み」に限定されているが、そこにおいて、多面的機能について「作業上の定義」を行うとして、(1)商品生産物(農業生産の場合には、農産物)と非商品生産物(同、環境保全や景観の維持=多面的機能)が、結合して生産されていること(結合生産)、(2)非商品生産物が、外部経済性、または、公共財の性格を持っていること、とした。また、OECDレポートは、「施策介入以外の選択肢について、十分検討されているという条件のもとで、多面的機能維持のための政策介入があり得る」として、多面的機能のための政策介入を、条件付きで定義している。「作業上の定義」ではあれ、OECDという場において多面的機能についての定義が行われたことの意義は極めて大きい。その定義は、日本政府がWTO農業交渉提案(1999年6月)において提起した定義とほぼ同じである。 (2)目下進行中であるWTO農業交渉における各国の提案のなかで、農業の持つ多面的機能の重要性とそれへの配慮について提起しているのは、EU、日本、ノルウエー、スイス、韓国、モーリシャスである。農業協定20条において、「交渉において考慮されるべき」とされた「貿易以外の関心事項」(Non-trade concerns)のなかの中心事項として提起されている。アメリカ・オーストラリアなどの農産物輸出国の提案には、多面的機能への言及はない。あるのは、アメリカの場合の「貿易以外の関心事項」への言及である。その中身は、多面的機能に近い。アメリカにおいても、東部を中心とする地域では、地域社会の維持との関係で農業の役割が考えられはじめているのである。
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