WTO(世界貿易機関)における農業交渉は、2000年3月に始まり、この3月が自由化についてのモダリテイ(関税削減・国内支持削減などの方式とその削減率)について合意する期限とされていた。 このなかで、農業交渉グループのハービンソン議長が、2月中旬に合意に向けての第一次提案を提起した。主要国は、交渉を進めるベースとしてこの提案を受け入れるには至らず、モダリテイについての合意は、9月にメキシコのカンクーンで開催される閣僚会合に持ちこされた。 しかし、「農業の多面的機能(貿易以外の関心事項)への配慮」という観点から見ると、議長第一次提案には、注目すべきものがある。それは、開発途上国について、『戦略作物』の規定を導入したことである。戦略作物は、「途上国において、食料安全保障、農村の発展、生活保障に関わる作物」とされ、そうした作物については、(1)関税の削減率は5%にとどめうる(そうでなければ、最低でも23%の削減が必要)。(2)関税割当制については、拡大の必要はない、とされているのである。この戦略作物は、農業の多面的機能を体現する作物であり、議長提案は、途上国については、「多面的機能への配慮」を全面的に認めたことを意味する。 ただし、先進国については、これと同じ規定は提案されていない。先進国についてもこれに準じた規定が導入されるならば、WTO農業交渉は、農業の多面的機能について、バランスのとれた配慮を行うということになろう。
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