一昨年の日本国内でのBSE発生や一連の食品偽装表示問題に端を発して、日本では、安全な畜産とは何か、消費者が望む農業生産のあり方とは何かに注目が集まっている。有機畜産は家畜の健康と福祉に配慮した生産方法である。FAOも有機農業による食料生産は最も安全な食品生産システムとして評価している。有機畜産は有機農業の地域循環システムの一環として実践されるシステムであり、今後の展開が期待される。世界レベルで安全な畜産に対する関心が高まっており、世界的な有機食品市場の形成とそれに伴うコーデックス有機畜産ガイドラインの採択を受けて、有機畜産への関心が高まりつつある。また、有機畜産実践の萌芽もわずかながらいくつかの場所で見られるようになってきた。そこで有機畜産の現状を把握するため、EU規則、コーデックスガイドライン、関連資料等収集を行い、平行して実態調査を行った。JA富士開拓はJAとして有機の里作りに取り組み地域をあげて有機畜産を実践しようとしている。乳業会社では高梨乳業が大地牧場と連携して日本初の有機牛乳認証をアメリカQAIより取得しており、養鶏では石井フーズが有機鶏を生産するなど先駆的な実践が見られる。 EUと日本を比較するため、ヨーロッパの最新の有機畜産物アグリフードシステムの状況についても検討を進めつつある。そのため、イギリス、オランダを中心としてヨーロッパ各地で調査を実施した。例えばイギリスでは、国内第2位の規模を誇るシープドロープ有機農場が有機畜産を実践しており、有機畜産物を直売やインターネットで販売するだけでなく地域生態系保全と環境教育に貢献している。また、動物福祉団体の有機畜産への取り組みも開始されている。オランダでも有機畜産農家の特に乳製品を中心とした直売が発展しており、市民に広く受け入れられている状況が確認できた。
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