EUでアグリフードシステム論研究が進展している背景には、第一に消費者の食品に対する要求が、高度化・多様化している点、第2にアグリフードチェーンにおけるコスト削減、第3に生産から消費までの全段階での一貫した品質管理の必要性がある。アグリフードチェーンを形成することで、現在、食品業界にもっとも必要とされる食品安全管理システム構築の条件が成立するのである。 有機食品がアグリフードチェーンの所産であるとの研究は、これまであまり行われてこなかったが、FAOもアグリフードチェーンにおけるトレーサビリティの確保できる食品安全管理システムのもっともよくなされている部門は有機農業であると評価しているように、アグリフードシステム論の実証的研究の成果は、有機食品がアグリフードシステムの将来進むべき重要な方向として位置づけている。特に、畜産物はEU市民にとって欠かせない食品であり、有機畜産物アグリフードチェーンの開発はEU食品業界にとって戦略的にも重要な位置を占めるようになってきており、有機畜産物も徐々に生産量が増加しつつある。有機畜産物は単に安全な食品であるという意味を持つだけでなく、アニマルウェルフェアの思想を実践していることがきわめて重要な位置を占める。イギリスでは市民団体によるスーパーマーケットのアニマルウェルフェアに対する対応等の調査も行われている。EU内ではイギリスがアニマルウェルフェアの最も進んだ国であるが、他のEU諸国もその方向に進みつつある。今年度の研究を通してその方向性が明確となり、アニマルウェルフェアのモデル的農場も登場しつつあることもが明らかとなった。 これまで日本では有機畜産に関しては、ほとんど不可能と考えられてきたが、できる限り有機基準に近い畜産物やすでに有機畜産認証を取得した農業者が出現するなど、新しい段階に入ったと見ることができる。
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