現状と同様なpHやイオン組成の酸性雨が、継続して長期間土壌に負荷された場合の影響予測手法の確立を目的に、土壌と酸性雨の間で生じる化学反応と、土壌中の水分移動を近似的に表すミキシングセル・モデルを有機的に結合した解析手法を用い、モデルの有効性を評価した。試料として変異荷電特性を有する火山灰土壌(関東ローム)を選定した。化学平衡式の平衡定数はバッチ法による測定値から決定し、アルミニウムの溶解と加水分解、陽イオン交換、炭酸塩平衡、陰イオン吸着、一次鉱物の風化による緩衝機能、および電気的中性条件、質量保存則で構成し、これらの条件を満足する値を繰り返し試算法により決定し、測定値と推定値は比較的良く一致した。しかし、これらの測定は硫酸あるいは硝酸溶液を単独に添加あるいは浸透させたものであり、現実の酸性雨とは異なり単一成分で構成されている。 このため、酸性雨の主たる成分である硫酸と硝酸溶液ンの混合割合を変えて添加するバッチ法を用い、pHおよび競合イオン種の陰イオン濃度に依存する吸着等温式を算出した。その結果、混合溶液添加時のpH変化、全塩基性陽イオン累積離脱量等の測定値と計算値に比較的良い一致を得た。また、混合溶液を浸透させた場合の溶脱液イオン濃度変化や土層内pH分布についての予測値も測定値と良好な一致を得た。そして、関東ロームに長期間(100年間)混合溶液が負荷された場合の本手法による影響予測と、土層内の水分移動を考慮しない従来の手法による影響予測の比較を行った。その結果、従来の手法では酸性物質が集中的に負荷される表面土壌への影響が考慮されていないため、酸性沈着による土壌影響予測を過小評価する可能性を明らかにした。
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