研究概要 |
日光温室は典型的な持続的省エネルギー型温室であり,在来技術に立脚したものであると同時に,将来的に有効な作物生産システムとして多くの研究課題を内包している。本研究は,日光温室の非定常熱収支解析ならびに現地における詳細な連続環境計測実験を行い,日光温室の蓄熱・放熱機構を主とする熱的環境形成機構を解明し,これまで経験則に基づいて多種多様に存在する施設諸元を見直し,地域気候特性に立脚した総合設計指針の提出を意図しているものである。 平成14年度の研究成果は以下の通りである。 1.実際の作物栽培時における日光温室の熱環境を予測する数学モデルを開発し,北京市における長期観測結果を用いて本モデルの計算精度を検証した。予測モデルは植被層の直達日射透過モデルならびに植被層のエネルギー収支モデルを新たに導入して構築した。温室内の作物長を変化させて予測計算を行ったところ、植被層を透過して温室の床面および東・西・北壁表面に入射する日射量の割合はその作物長に左右され、室内気温・相対湿度も同様に作物長に影響を受けることが示された。 2.厳寒期2001年12月から2002年3月までの間,北京市および長春市にある実験用日光温室で実施した実験結果を解析した。北京温室においては最低外気温が-9.3〜-3.0℃時に室内外温度差は6.4〜9.9℃あり,完全無暖房で作物栽培が行われていた。固体壁および土壌中への日中蓄熱量は当日の日射量と高い相関を示したが,夜間放熱量と当日の日射量との相関は低かった。各壁・土壌からの室内側への夜間放熱量の割合は,土壌から78%,北壁から14%,東・西壁から各4%であった。また,夜間における北壁および後屋根外側表面からの熱損失量は,室内側への放熱量と同等程度あり,効果的な室内保温のためにはこれら熱損失を防ぐ必要が認められた。 3.2002年10月から瀋陽市の実際にトマトを栽培している日光温室における環境計測のための機器設置を行い,その後,中国側研究者がデータの収集とインターネットによる日本側へのデータ送信を行い,日本側はこれを受けてデータ解析を実施中である。
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