研究概要 |
本研究は、ウシのICSI法を確立することを目的として、精子側と卵子側の種々の条件を明らかにしようとした。すなわち、精子側として(1)精子前処理の有無、(2)精子不動化処理、(3)PVP溶液の濃度、卵子側として(1)体外成熟培養時間、(2)細胞質明瞭化のための遠心分離処理、(3)精子注入後の卵子活性化処理法の影響を検討した。さらに、ICSI後のウシ卵子の活性化処理は必ずしも必要ではない」という仮説を企て、ICSI後に発生した胚(胚盤胞)をレセピアント牛に移植し、正常な子牛が誕生するかどうかを検討した。その結果、1)通常の体外受精(IVF)とICSIに用いる種雄牛の個体差が異なる。すなわち、IVFに用いた種雄牛の凍結精液による精子侵入率や前核形成率が低くても、ICSIで改善された。2)精子の種類(運動精子、不動精子、死滅精子)による雄性前核形成率に有意差は認められなかった。また、Caイオノホアなどの精子前処理および精子の不動化処理は有効であった。3)卵子側について、遠心処理(6,000g,7分)による細胞質の透明化、4%PVP濃度の使用、そして精子尾部の切断により卵子生存性、雄性前核形成率が改善され、体外培養後72%の分割率(2-8細胞期)、23%の胚盤胞への発生率が得られた。4)ICSI後、卵子活性化処理を施さないで発生した胚盤胞8個を7頭に移植した結果、4頭が妊娠分娩し、5頭(2胚移植した1頭の母牛は双子を分娩)の正常な子牛が誕生した。以上の成果から種々の条件が設定され、ウシの体外受精法の一つとして、卵細胞質内精子注入(ICSI)法が確立され、ICSI後の卵子活性化処理を行わなくても正常な胚・子牛が生産できることを初めて明らかにした。
|