標的器官における糖質コルチコイド作用の高低は、2つの糖質コルチコイドの代謝酵素、活性型11β-HSD1と非活性型 11β-HSD2、および糖質コルチコイドレセプター(GR)の発現具合によって決定される。近年ラットやヒト卵巣でこれらの因子が発現していること、そして糖質コルチコイドが卵巣に直接作用することが示されている。しかしウシを含めた家畜の卵巣生理に糖質コルチコイドが関与しているかはのかは不明だった。本研究ではウシ卵巣における糖質コルチコイド作用機序を解明する一環として、これらの因子の卵巣諸組織における発現動態を検証した。 屠場由来の卵巣から卵胞と黄体を採取し、顆粒層、卵胞膜および黄体組織における11β-HSD1と2、およびGR mRNAの発現をquantitative RT-PCR法によって解析した。結果は以下の通りである。1)黄体で典型的な糖質コルチコイド標的器官(肝臓)や代謝器官(腎臓)と比較しうるレベルの11β-HSD1と2、およびGR mRNAの発現が認められた。一方卵胞の顆粒層、卵胞の顆粒層、卵胚膜組織では11β-HSD1とGR mRNAの発現は明確に認められたが、11β-HSD2の発現は非常に低かった。2)顆粒層、卵胞膜組織における11β-HSD1とGR mRNAの発現レベルは発情周期(黄体期vs卵胞期)もしくは卵胞性状(正常vs閉鎖)にかかわらずほぼ一定であった。3)黄体における11β-HSD1と2、およびGR mRNAの発現レベルは黄体退行に伴い低下した。 以上のことからウシ卵巣の諸組織が糖質コルチコイドに対して感受性をもつこと(GRの存在)、そしてこれら標的組織における糖質コルチコイドレベルが活性型(11β-HSD1)および非活性型(11β-HSD2)糖質コルチコイド代謝酵素によって局所で調整されている可能性が示唆された。
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