ウシ乳腺上皮細胞は妊娠後急激に増殖・分化し、その後退行期には多くの細胞がアポトーシスにより死滅する。このような作用は、ホルモン、細胞外マトリックスなどの因子によってコントロールされているがその詳細は不明である。そこで本研究では、ホルスタイン種乳牛より単離した乳腺上皮細胞(BMEC)を用いて、(1)BMCEの増殖に及ぼすデキサメサゾンの影響、(2)酪酸によるBMECの細胞死誘導作用、(3)BMECのIGFBPs発現に及ぼす成長ホルモン、催乳ホルモン(プロラクチン、インスリン、デキサメサゾン)の影響について検討を行った。 (1)BMECはMatrigel上にて培養すると乳腺胞様構造を形成し、カゼインを合成分泌した。しかし、催乳ホルモン非存在下では、その後乳腺胞様構造が崩壊し細胞死が誘導された。デキサメサゾンはこのアポトーシスを抑制した。 (2)BMECの培養時に酪酸を添加すると、分化誘導前では効果が認められなかったが分化誘導後にはアポトーシスが誘導された。 (3)乳腺上皮細胞のアポトーシスに重要な役割を果たしていると考えられるIGFs/IGFBPs系の発現について検討した結果、IGFBP-5タンパク質発現は、催乳ホルモンおよび成長ホルモン処理により低下することが明らかになった。 以上の結果より、(1)乳腺上皮細胞の生存維持には催乳ホルモンの内デキサメサゾンが最も重要な役割を果たしていること、(2)乳腺上皮細胞の酪酸に対する感受性は分化誘導前後で変化すること、および、(3)乳腺上皮細胞のアポトーシスにはIGFs/IGFBPs系が重要な役割を果たしており、IGFBP-5発現を成長ホルモンが抑制したことから、成長ホルモンはIGFBPを介して乳腺上皮細胞のアポトーシス直接影響することが明らかになった。
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