低栄養は生殖機能を抑制することが知られている。これまで48時間の絶食ストレス負荷により、視床下部室傍核(PVN)および延髄孤束核(NTS)においてエストロジェン受容体α(ERα)の発現が誘起されることを明らかとし、またこれらの神経核が、絶食ストレス不可による黄体形成ホルモン(LH)分泌抑制に必要なエストロジェンのフィードバック部位であることを明らかにした。そこで、絶食により変化する栄養因子のうちグルコースに着目し、薬理学的グルコース利用阻害がPVNおよびNTSにおけるERα発現を誘起するか否か、さらにどのような機序により誘起されるかを解明することを目的として実験を行った。 卵巣除去を施したラットにグルコース拮抗剤(2DG)を投与し、免疫組織化学によりERαの免疫陽性細胞の有無を確かめた。これに加え、一部の脳切片において、ERαとチロシン水酸化酵素(TH)あるいはドーパミンβ水酸化酵素(DBH)との2重免疫組織化学を行った。この結果、PVNおよびNTSにおいてERα免疫陽性細胞の増加が認められ、NTSにおいてERα免疫陽性細胞の殆どが、細胞質にTHあるいはDBHを持つことが明らかとなった。さらに、PVNにおいて、ERα免疫陽性細胞に隣接して、THあるいはDBH免疫陽性繊維が認められた。この結果から、グルコース利用阻害はNTSのA2領域に細胞体をもつノルアドレナリン作働神経におけるERαの発現を促すこと、およびPVNにおけるERα免疫陽性細胞は、ここに投射するノルアドレナリン作働性神経により、ERα発現が誘起されることが示唆され、さらに絶食によるさまざまな生理変化のうち、グルコース利用性の低下が、この発現誘起に関わることが示唆された。泌乳ラットにおいても、泌乳期後半ではエストロジェン依存性のLH分泌抑制が見られることから、絶食あるいはグルコース利用阻害によるLH分泌抑制は泌乳動物における性腺機能抑制のモデルとして有用である可能性を示した。
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