NF-κBは、細胞外部からの様々な刺激により活性化が誘導され、細胞質から核内へと移行する転写因子であり、アフリカツメガエルやニワトリ胚の発生を調節することが知られている。マウス着床前胚においても、その全発生段階でNF-κBが発現しており、1細胞期胚をNF-κB阻害剤で処理することにより2細胞期で発生が停止することが報告されている。従って、NF-κBがマウス着床前胚において、発生に必要な何らかの機能を担っている可能性が考えられる。本研究では、マウス着床前胚の発生過程におけるNF-κBの核内への局在時期を検討するとともに、核内に局在するNF-κBがDNAへの結合能を持つ活性型であるのかどうかについて検討した。NF-κBの核内への局在時期を免疫蛍光染色法で検討した結果、1細胞期から4細胞期にかけてNF-κBの核への局在が見られ、特に2細胞期後期において他の発生段階よりも強い蛍光が観察された。次に着床前の各発生段階においてNF-κB がDNA結合能を持つかどうかについて、ゲルシフトアッセイにより検討した。NF-κBは、1細胞期から4細胞期にかけてDNA結合能を持ち、特に1細胞期後期から2細胞期後期にかけてはそのDNA結合能が強いことが明らかとなった。着床前胚におけるNF-κBの二量体構成を検討するために、スーパーシフトアッセイを行った。その結果、RelA-p50という二量体構成のNF-κBの存在が示唆された。以上の結果から、マウス着床前胚においてはRelA-p50の二量体を構成するNF-κBが存在し、そして1細胞期後期から2細胞期後期にかけて核内に局在するNF-κBは、強いDNA結合能を持つことが示された。これらの結果から、NF-κBが着床前胚において何らかの遺伝子発現の制御に関与している可能性が示唆される。
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