マウス着床前胚に発現するNF-κBはRelA(P65)とp50サブユニットの二量体を構成している。免疫蛍光抗体法でp65の局在を検討した結果、1細胞期および2細胞期の後期、つまり胚性ゲノムの活性化時期に核内に強く局在するようになる。さらに、核内のNF-κBが実際に活性化されてDNAに結合する能力をもつかについてゲルシフトアッセイで検討した結果、核内に局在する時期に強いDNA結合を発揮することが判明した。今回、NF-κBのマウス初期胚の発生にどのような影響をおよぼすのかについて、NF-kBのp65サブユニットのアンチセンスオリゴマーを用いて検討した。5〜30μMでの様々な濃度のホスホロチオエートオリゴマー(S-オリゴマー)を含む培養液でマウス1細胞期胚を培養した。無処理対照区において、1細胞期胚のほとんどが4細胞期へ発生し(90%)、さらに約70%が胚盤胞へ発生した。25μMのアンチセンスS-オリゴマーで処理した場合、4細胞期以降への発生(47%)が抑制され、胚盤胞への発生は全く観察されなかった。一方、センスS-オリゴマー処理対照区では、無処理対照区に比べて4細胞期および胚盤胞期への発生は低下したが、その発生率(69%と46%)はアンチセンス処理区に比べて有意に高かった。ところが、2細胞期からS-オリゴマー(20μM)処理をした場合、アンチセンス処理によっても胚盤胞期への発生はほとんど影響されず、その発生率(68%)は、無処理対照区(72%)およびセンス処理区(75%)と比べて変わらなかった。次に、アンチセンスS-オリゴマー処理胚において、実際にp65m RNAの発現が抑制されているのかを、P65抗体による免疫蛍光抗体法で検討した。アンチセンスオリゴ処理によって2細胞期で発生を停止した胚では、P65の細胞内局在は全く観察されなかった。しかし、無処理対照区およびアンチセンス処理区の全ての2細胞期胚において、P65に対する蛍光シグナルが胚の細胞質及び核内に観察された。以上の結果より、1細胞期から2細胞期に発現しているNF-κBが4細胞期移行の分割に重要な役割を果たしていることが示された。今後、1細胞期および2細胞期後期の核内に局在し、DNA結合能を有するNF-κBが、実際に転写活性を発揮できるか、そしてどのような遺伝子発現を調節しているのかについて検討する必要がある。
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