NF-κBは、細胞外部からの様々な刺激により活性化が誘導され、細胞質から核内へと移行する転写因子であり、アフリカツメガエルやニワトリ胚の発生を調節することが知られている。マウス着床前胚においても、その全発生段階でNF-κBが発現しており、1細胞期胚をNF-κB阻害剤で処理することにより2細胞期で発生が停止することが報告されている。従って、NF-κBがマウス着床前胚において、発生に必要な何らかの機能を担っている可能性が考えられる。本研究では、マウス着床前胚の発生過程におけるNF-κBの核内への局在時期を検討するとともに、核内に局在するNF-κBがDNAへの結合能を持つ活性型であるのか、またマウス着床前胚の発生におけるNF-κBの役割について検討した。 マウス着床前胚に発現するNF-κBはRelA(p65)とp50サブユニットの二量体を構成している。免疫蛍光抗体法でp65の局在を検討した結果、1細胞期および2細胞期の後期、つまり胚性ゲノムの活性化時期に核内に強く局在するようになる。さらに、核内のNF-κBが実際に活性化されてDNAに結合する能力をもつのかについてゲルシフトアッセイで検討した。その結果、核内に局在する時期に強いDNA結合を発揮することから、この時期のNF-κBは活性型であることが判明した。次に、NF-κBがマウス着床前胚の発生にどのような影響をおよぼすのかについて、NF-κBのp65サブユニットのアンチセンスオリゴマーを用いて検討した5〜30μMでの様々な濃度のホスホロチオエートオリゴマー(S-オリゴマー)を含む培養液でマウス1細胞期胚を培養した。20μM以上の濃度のアンチセンスS-オリゴマー処理胚は、2細胞期以降への発生が抑制された。無処理胚およびセンスS-オリゴマー処理胚は、2細胞期以降に高率に発生した。アンチセンスオリゴ処理によって2細胞期で発生を停止した胚では、p65の細胞内局在は全く観察されなかった。以上の結果より、1細胞期から2細胞期に発現しているNF-κBが4細胞期移行の分割に重要な役割を果たしていることが示された。今後、1細胞期および2細胞期後期の核内に局在し、DNA結合能を有するNF-κBが、実際に転写活性を発揮できるか、そしてどのような遺伝子発現を調節しているのかについて検討する必要がある。
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