和牛、ホルスタイン牛の骨格筋から骨格筋衛星細胞(以下、衛星細胞)の分離、精製、培養のシステムを確立した。このシステムでは衛星細胞を比重により選別し、更にプラスティクディシュへの付着性の違いを利用して、線維芽細胞等の混在する細胞を除き、精製した。細胞培養の培地としてはDMEM/F-12に10%Fetal Bovine Serum(FBS)を加え、その他、抗生物質、抗黴剤を加えた培地を用いた。この培地では、衛星細胞はカルチャーディシュに付着し、紡錘状の形態をとり、3-5日でコンフルエンスに到達し、継代が可能となった。上記培地からFBSを除いたものを培地として用いると、1-2日で筋肉細胞への分化が始まり、筋管の形成が見られた。この筋管では筋肉タンパク質の一つであるミオシンの発現が認められ、衛星細胞の筋肉細胞・筋管への分化が完了していることが確認されている。このように通常の増殖培地ではウシ衛星細胞は自発的に筋肉細胞に分化することが実証されている。本研究の第2ステップでは、細胞系譜(筋肉細胞系譜)の安定性を解析する目的で、次のような実験を行い、「衛星細胞を筋肉以外の細胞系譜に導入することができる」という仮説の証明を行った。実験では、衛星細胞が紡錘状の形態を取った時点で、リポフェクションにより、Peroxisome proliferators-activated receptors γ(PPARγ)を細胞に導入し、培養を続けた場合、衛星細胞は脂肪滴を蓄積した。これは衛星細胞が他の細胞へ分化できるということを証明した最初の報告である。又、PPARγの発現タイミングにより、筋管を形成した後、筋肉タンパク質のみならず、脂肪細胞として脂肪滴の蓄積も記録している。これらの知見は衛星細胞が成体幹細胞としての多能性を所持していることの証明であり、また、細胞分化の概念に新しい視野を加えたものである。
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