本研究の目的は壁内神経細胞における細胞外からのCa流入調節機構、容量性Ca流入の性質及び関与するチャネル分子機能を明らかにすることである。そのため、まず神経モデル細胞であるクロム親和細胞とPC12細胞を用いて、細胞外からのCa流入経路に関する研究を行った。次いで、新生ラット小腸より単離培養した壁内神経細胞の細胞内Ca動態解析並びにチャネル蛋白質候補であるTRP5遺伝子を神経細胞に発現させ機能解析を行った。その結果、1)クロム親和性細胞の電位依存性Caチャネルは内因性オピオイドペプチドによりG蛋白依存性の抑制性調節を受けていた。2)細胞内ストアからのCa放出は分泌反応に加えて細胞膜チャネル活性を制御していた。3)ラット小腸壁内神経細胞は神経特異的蛋白質PGP9.5免疫陽性を示し、この細胞はATPにより[Ca2+]l増加と内向き陽イオン電流を引き起こした4)外液Ca存在下ではATP及びタプシガルジンは持続的な[Ca2+]l増加を引き起こし、この反応は容量性Ca流入阻害薬La、Ni、SK&F96365により抑制された。5)TRP5発現PC12細胞では自発的チャネル活性の増加が見られた。更にブラジキニン、UTPによりmock細胞より大きな[Ca2+]l増加反応が生じ、TRP5がGTP結合型受容体と関連したイオンチャネルを形成する可能性が示された。9)RT-PCRによる遺伝子解析の結果、壁内神経細胞にTRP蛋白質が発現していることが明らかになった。 本研究により細胞外からのCa流入経路は様々な調節を受けていることが示された。また壁内神経細胞には容量性Ca流入機構が存在し、この機構は神経伝達物質であるATPにより活性化されることが明らかになった。責任チャネル分子としてTRPの関与が示唆されたが、サブタイプの同定には至らなかった。今後は各TRPサブタイプ蛋白質の発現による機能解析やアンチセンスオリゴヌクレオチドを用いた変異導入細胞を用いる等の更なる研究が必要であると思われる。
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