本実験に於て、抗原遺伝子等、種々の遺伝子の同時発現を行える系の開発を第1義的に追及した。このような系の開発は多価ワクチンやある場合にはサイトカイン遺伝子を同時発現するなどワクチン効果を高める目的に有効であると考えられる。この目的のために従来より開発を続けてきたマウス白血病ウイルスのモリキュラークローンを用いてgagおよびenv遺伝子領域に外来遺伝子を導入して、その発現の可能性を確かめることから出発した。[結果1].外来遺伝子としてクラゲ由来の発光遺伝子、EGFP、EBFP遺伝子をPCR法で増幅し、フレンドマウス自血病ウイルスのgag遺伝子領域(gag蛋白との融合蛋白の形で)、env遺伝子領域(env遺伝子発現を完全に抑える形で)に導入し、さらにウイルスゲノムの外側に薬剤耐性遺伝子(Blasticidine resistant gene)を配置したベクター系を開発した。このベクター系をトランスフェクションによって、ラット腎由来細胞に導入し、薬剤による選択を行い、gag、envそれぞれの領域に配置したEGFP、EBFP蛋白質の発現を蛍光顕微鏡によって調べた。その結果、同一感染細胞中にEGFPによる緑色蛍光、EBFPによる青色蛍光観察された。このことはレトロウイルスのgag、env遺伝子領域の2箇所に外来遺伝子を導入できることを意味している。さらにこれと関連して、gag遺伝子領域に存在する2箇所のgag蛋白質のイニシエーションコドンをPCR法によって消去した場合についても検討し、同様の結果を得た。このことから、外来遺伝子を修飾(gag蛋白との融合蛋白の形)すること無く発現させることが可能であるという結果を得た。(投稿準備中)[結果2].この結果に基づいて、外来遺伝子としてイヌジステンパーウイルスのHまたはF蛋白質遺伝子をそれぞれEGFP遺伝子に相応する部位に組み込み、ベクターDNAとして、また別途開発したエコトロピックウイルスのパッケージングミュータントと合わせて一度だけ感染できる遺伝子導入ウイルスとしてそのワクチンへの可能性を検討することにした。現在までに、EGFP遺伝子とHまたはF遺伝子の組み合わせ、H、F遣伝子の両方を保持するベクターDNAの調製ができたが、ワクチン効果の検討は今後の課題として残されている。
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