研究概要 |
本年度は、これまでにブタ子宮で存在が確認されたprostanoid DP、FP、TP、EP3受容体の分布が子宮部位(角部、体部、頸管部)で異なるか否かを機能的及び生化学的実験から解析した。得られた結果を以下に示した。(1)Fluprostenol (FP)は、角部縦走筋を収縮させたが、体部、頚管部縦走筋及び全部位の輪走筋には著明な収縮を惹起しなかった。RT-PCR法とwestern blot法を用いFP受容体の分布を解析した所、mRNA、受容体タンパク質はいずれの部位でも縦走筋に多く発現し、角部から頸管部に向かい減少していくことが明らかになった。この受容体の不均一な分布は、FP受容体作動薬の反応性の筋層差、部位差と一致していた。(2)U46619 (TP)は、全部位において縦走筋、輪走筋標本を収縮させた。輪走筋では部位による反応性の差は認められなかったが、縦走筋の反応性には部位差があった(最大反応とpD2,角部:132%,6.8、体部:66%,7.6、頚管部:49%,7.5)。(3)ONO-AE-248 (EP3)は、いずれの部位の縦走筋にも収縮を誘起した。反応性は部位により異なり、角部>>体部=頚管部の順であった。一方、輪走筋標本では反応性に部位差は認められなかった。(4)BW245C (DP)はどの部位においても縦走筋、輪走筋の自発収縮活性を濃度依存性に抑制した(抑制作用は輪走筋で著明)。輪走筋における抑制には部位差は認められなかったが、縦走筋標本の反応性は部位により異なり、子宮体部、頸管部では増加した(体部8.5>頚管部8.2>角部7.5)。(5)Western blot法を用いprostanoid合成酵素であるCOX-1とCOX-2の発現を筋層、部位で比較した所、非妊娠子宮ではCOX-1のみが筋層依存性(縦走筋>輪走筋)に発現し、角部で多く頸管部では減少することが明らかになった。COX-2の発現は非妊娠子宮では認められず妊娠子宮でのみ観察された。このことは、妊娠期、prostanoidが大量に産生され子宮運動に影響を与えていることを窺わせる。 以上の成績は、ブタ子宮においてprostanoidの反応性は部位により異なること(縦走筋で著明、受容体の不均一な分布が原因)、収縮性作動薬(角部>>体部=頚管部)と弛緩性作動薬(頸管部=体部>>角部)では、部位に依存した反応性の勾配が逆になっていることを明らかにした。これらの事実より、ブタ子宮では角部の収縮活性が、頸管部よりも高くなり、角部から頸管部に向い減少していく内圧勾配が形成され、子宮内容物の移送に寄与していることが推察される。
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