主に北海道地方で分離されたウシウイルス性下痢症ウイルス(BVDV)の5'非翻訳領域遺伝子(5'UTR)の塩基配列に基づき、これらの野外分離ウイルスを遺伝子型別した。その結果、青森県の発症牛から分離されたウイルスのみがBVDV2であった。この症例は下痢症状を呈しており、さらに舌・歯肉・腸管などの粘膜にビランあるいは潰瘍をともなう病変が認められるなど、典型的な粘膜病を呈していた。BVDV2感染症の特徴的な臨床症状といわれている血小板減少症、出血傾向、止血異常などは全く認められなかった。また、北海道内ではBVDV2感染は確認されなかった。青森で分離されたウイルス以外はすべて遺伝子型でBVDV1に分類され、さらにaあるいはb亜型に分属された。また、ワクチン株として使用されているBVDV(日本では1株のみ利用されている)はa亜型に属しており、同グループに属している野外分離株は少数であった。 次に、BVDVの主要抗原であるE2をコードする遺伝子の塩基配列を解読し、それに基づく系統樹解析により遺伝子亜型を決定した。その結果、5'UTRの塩基配列に基づいた遺伝子亜型と同様、北海道地方で検出されたほとんどのBVDVは1aあるいは1b亜型に分類された。しかし、4例は新たに1c亜型に分類された。これら4例は5'UTRの系統樹では1aに分類されていた。さらに、これら4例は下痢症を呈しておらず、うち1例には右旋回運動を主徴とする中枢神経異常が認められた。これまでに1c亜型は野生鹿一例においてのみ確認されており、本研究において初めて牛での感染が確認された。 また、糖尿病併発BVDV感染牛から検出されたBVDVはすべて1a亜型に分類され、それぞれが非常に近縁であり、小クラスターを形成していた。本研究において1aあるいは1b亜型に分類されたウイルスは、それぞれのサブグループ内で非常に近縁であり小クラスターを形成していたが、糖尿病併発BVDVは、それら以上に近縁であることが示された。
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