研究概要 |
血球凝集性脳脊髄炎ウイルス(HEV)の神経親和性決定機構と持続感染機序の解明に関して下記のような成績を得た。 1.マウスにおける各種接種経路によるHEVの神経親和性。HEVに対して週令の増加に伴い感受性が低下したが脳内、鼻腔内、皮内接種では8週令マウスで感染し、HEVの神経親和性は接種経路に大きく関与することが明らかとなった。後肢皮下接種によるHEVの末梢神経から背角神経節を介してウイルスは腰髄、大脳皮質II, IV層神経細胞、小脳プルキニエ細胞へ感染を広げることがウイルス学的、免疫組織化学的検索により証明された。 2.神経組織内におけるウイルス輸送経路の解明では、狂犬病ウイルスが神経軸索内を、ヘルペスウイルスではじく先に加え、シュワン細胞内を経由して末梢からCNSへ感染を拡げることが知られている。ラットの坐骨神経の再生軸索実験系による解析では、軸索切断後再生軸索が接種部位に到達したと考えられる時期(手術20,30日後)のHEV接種ではウイルスがCNSに移行し、それ以前(手術直後、10日後)では感染発症しなかったことから、HEVはシュワン細胞を介することなく、狂犬病ウイルスと同様に神経軸索のみを介して感染を拡げることが解明された。 3.HEVの標的細胞を同定するために、HEVを脳内、皮下接種したマウス、ラットのアストロサイト(GFAP)、ミクログリア細胞(TB4)に対する抗体とHEV抗体による2重、もしくは3重免疫組織化学法では、GFAP及びTB4陽性細胞にはHEV抗原が検出されず、HEVは神経細胞にのみ感染し増殖することが証明された。 4.これらの成績から、1)HEVが軸索内移動すること。2)経シナプス的感染をすること、3)標的細胞が神経細胞であること、4)感染神経細胞に壊死的、融解敵感染が認められないこと、5)CNSに炎症性反応が認められないことが、神経親和性、持続感染成立に大きく関与していると考察された。
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