研究概要 |
1.ウシParacellin-1 mRNAの発現 ウシParacellin-1遺伝子を保有する正常な黒毛和種牛2頭とParacellin-1遺伝子のexon1-4が欠失した遺伝性腎尿細管形成不全症(Renal tuber dysplasia, RTD)の黒毛和種牛1頭を対象にして,腎,脳,心,肺,肝,脾,膵,皮膚(頚部),骨格筋(大腿),蹄,第I, II, IIIおよびIV胃,空腸,結腸の16臓器・組織におけるParacellin-1 mRNAの発現について検討した.方法は各臓器・組織からtotal RNAを抽出し,RT-PCR法とnested PCR法によりParacellin-1 mRNAを増幅し,アガロースゲル電気泳動法によって確認した.その結果,Paracellin-1 mRNAは正常黒毛和種牛の腎臓においてのみ発現が認められたが,RTD牛では腎臓を含むすべての臓器・組織において発現が認められなかった.RTD牛で見られる尿細管形成不全にParacellin-1の関与が考えられ,尿細管機能との関係を検討する必要があると考えられた. 2.RTD牛におけるマグネシウム(Mg)およびカルシウム(Ca)の腎における再吸収 RTD牛における血清Mg, Ca濃度と尿へのMg, Caの排泄動態を知るために,RTD牛33頭,キャリア牛17頭,正常牛27頭を対象に血中Mg, Ca濃度ならびに尿中Mg, Ca濃度を測定した。血清Mg濃度はRTD牛では正常からやや高い範囲に分布し,低Mg血症を示した例はなかった。一方,血清Ca濃度はRTD牛で低い値を示した。尿中のMg, Ca濃度には3群の間に有意差はなかった。糸球体ろ過率はRTD牛で著しく低く,これと平行してMgとCaのろ過率も低い値であった。Mg再吸収量をろ過率で除したMg再吸収率はRTD牛で低い値を示したが,Caの再吸収率はRTD牛と正常牛で差がなかった。RTDでは腎臓におけるMgの再吸収率が低く,Paracellin-1の欠損が尿細管におけるMgの再吸収に影響を及ぼしていると考えられた。
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