研究概要 |
ボツリヌス神経毒素の受容体認識に関わる領域をアミノ酸レベルで解析するために、重鎖C末端領域をPCRで増幅し発現ベクターに挿入後、リコンビナントの受容体結合活性を測定したところ、神経毒素と同程度の活性を有していた。神経毒素遺伝子の塩基配列、毒素の立体構造、毒素間で見られた活性の差などを参考にして、B型神経毒素では受容体認識部位の構築に関連があると予想される1261残基目のトリプトファン(W1261)を中心にして数種類の点変異体を調製した。その結果、H1240、S1261、W1261、およびY1262のアラニンへの置換により結合活性を消失することから、これらのアミノ酸残基が受容体認識に直接関係していることが示唆された。さらに、その周辺に存在するK1186,E1189,K1260はガングリオシドへの結合に関与するが受容体結合への関与が低いと考えられ、受容体認識部は非常に限局した位置にあることが予想された。一方、哺乳動物が罹患するC型菌は鳥類から分離されるC型菌と異なる神経毒素を産生し、実際、鳥類由来菌の産生する神経毒素は哺乳類由来神経毒素より鶏に対して約4倍毒力が高い。これらC型神経毒素遺伝子を解析した結果、特に重鎖C末端領域で非常に異なることが分かり、その相同性は約40%であった。C型神経毒素重鎖リコンビナントを用いて、鶏脳シナプトソームへの結合を調べた結果、鳥類および哺乳動物由来それぞれの神経毒素重鎖の認識する受容体は異なり、ヘテロな重鎖の結合を阻害するためには約150倍の濃度を必要とした。さらに鳥類由来神経毒素の受容体に対する高親和性結合活性は哺乳動物由来神経毒素より約10倍高いことがわかった。さらに、鶏脳シナプトソームを出発材料として受容体の精製を試みた。イオン交換クロマトおよび疎水クロマトで毒素結合活性を含む分画を得ることができた。標識重鎖リコンビナントを使用して、結合する蛋白を解析した結果、酸性の糖タンパクが同定できた。現在、この蛋白の性状について解析を進めている。
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