本研究は、トリパノゾーマ病予防のワクチンを開発するために、Trypanosoma bruceiをモデルに原虫表面の糖脂質抗原の抗原性を明らかにし、糖脂質抗原を応用したトリパノゾーマ病のワクチンを開発することを目的として行われた。 1、T.bruceiからの糖脂質の精製。 T.bruceiからの中性糖脂質ならびにガングリオシドを精製し解析した結果、原虫の中性糖脂質としてグルコシルセラミドとラクトシルセラミドが、ガングリオシドとしてGM3、GM1、GD1a、GD1bが同定された。これらの糖脂質はいずれも原虫表面に発現していることが示された。 2、T.brucei関連糖脂質抗原をターゲットとした、モノクローナル抗体による治療実験。 T.brucei関連糖脂質に対するモノクローナル抗体をT.brucei培養系に加え、その増殖抑制効果について調べた。その結果、用いたモノクローナル抗体により原虫の増殖が抑制され、T.brucei関連糖脂質抗原をターゲットとした治療・予防の可能性が示された。 3、T.brucei糖脂質抗原の免疫原性の解析。 T.brucei表面の糖脂質抗原をリポソームに組み込みマウスを免疫し、その免疫原性を解析した。その結果、ジパルミトイルフォスファチジルコリンとコレステロールから成るリポソームにアジュバント(サルモネラLPS)とともに糖脂質抗原を再構成させ免疫することにより、糖脂質抗原に対する免疫応答が誘導できることが明らかとなった。 4、T.brucei関連糖脂質抗原を組み込んだリポソーム型ワクチンによる感染防御効果の検討。 T.brucei関連糖脂質を組み込んだリポソーム型ワクチンにより、糖脂質抗原に対する免疫応答を誘導したマウスにT.bruceiを感染させ、その感染防御効果について検討した。その結果、非免疫マウスでは感染後5日目までにすべて死亡したが、糖脂質抗原を免疫したマウスでは感染後40日目でも100%生存していた。この結果からT.bruceiの糖脂質抗原に対する免疫応答の誘導が、原虫の感染防御に有効であり、T.brucei関連糖脂質抗原をターゲットとした治療・予防の可能性が示された。
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