研究概要 |
原発性免疫不全症は免疫機構の機能不全あるいは器質的障害に伴い難治性感染症に反復罹患する症候群で、遺伝関係が証明される場合が多い。ウシでの報告は受精卵移植によるアンガス牛1例以外にない。症例は生後1〜4ヶ月の黒毛和種の雄6例で、臨床的に出生時より虚弱で、下痢や肺炎を繰り返していた。出生後に初乳の経口投与を受けていたにも関わらず、血清中の各免疫グロブリンサブクラス(IgG1,IgG2,IgA, IgM)の濃度はいずれも低値であった。病理学的に全身のリンパ器官、とくに胸腺ならびに小腸パイエル板、骨髄は高度に萎縮していており、深在性真菌症に罹患していた。末梢血単核球(PBMC)の表面抗原解析ではB細胞の割合が約5%と極度に減少しており、PBMCはPHA刺激に対しほとんど反応せず、IL-2添加により反応した。脾臓からDNAを抽出しPCR法によりTCRと免疫グロブリンL鎖Vλ領域におけるV(J)D再構成の遺伝子発現について解析したところTCR遺伝子領域は全例で発現していたが、Vλ領域の遺伝子は4例中2例で弱く発現し、他の2例では全く発現していなかった。RT-PCR法により再構成活性化遺伝子(RAG)-1ならびにRAG-2のmRNAの発現を検索したところ、両遺伝子は全例で発現していた。上記の成績より液性ならびに細胞性免疫はほとんど器質的に機能していない状態であることが証明されたことから、本症を黒毛和種の先天性免疫不全症候群と診断した。黒毛和種には先天性腎低形成症(CL-16欠損症)、赤血球膜蛋白異常症(バンドIII欠損症)のほか、先天性疾患として本症候群の存在が初めて確認された。 これまでの成績を第131回日本獣医学会、2000年度全米獣医病理学会、平成13年度日本獣医師会年次総会で発表し、平成13年度日本産業動物獣医学会長賞を受賞した。
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