研究概要 |
鯨類においては生体防御能についての研究,特に分子生態学的研究は少なく,より一層の研究の進展が求められている。そこで鯨類の生体防御機構を明らかにする一環として,初期感染防御において重要な役割を担う好中球の活性酸素産生酵素(NADPH oxidase)およびその制御因子であるサイトカイン遺伝子の同定および陸生哺乳類との比較検討を行った。 供試材料はハンドウイルカの白血球を用い,マイトージェンによる刺激培養後,RNAを抽出し,NADPH oxidase構成蛋白質(gp91^<phox>, p22^<phox>, p40^<phox>, p47^<phox>およびp67^<phox>)およびサイトカイン(IL-1α, IL-1β, IL-1ra, IL-4, IL-8, IL-12, IFN-γ, TNF-α)遺伝子について,陸棲哺乳類で保存性の高い領域をプライマーとしたRT-PCRを行い,増幅されたcDNAを解析した。さらにクローニング後、遺伝子情報に基づいて発現させた組換え型イルカTNF-αのNADPH oxidase活性に対する影響について検討した。 本研究の結果,明らかとなったイルカのNADPH oxidaseコード遺伝子およびサイトカイン遺伝子は,いずれもウシと高い相同性(77.0〜95.4%)を示し,予測されるアミノ酸構造は陸棲哺乳類とほぼ同様であると考えられた。また活性酸素産生について検討した結果,ハンドウイルカ好中球は陸棲哺乳類と同様に細胞膜の刺激に伴って活性酸素を産生し,その反応は温度依存性であり,NADPH oxidase阻害剤によって抑制された。さらに組換え型イルカTNF-αは,活性酸素産生増強作用(プライミング作用)を示した。 以上、イルカ好中球において発現している活性酸素産生酵素は基本的に陸棲哺乳類と同様の構造および機能を有し、サイトカインによる活性酸素産生調節機構も存在することが示された。
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