本研究は超微細な繊維であるバクテリアセルロースを用い、一般的な溶媒である水酸化ナトリウム水溶液に対する溶解の可能性と、その溶解挙動およびミクロフィブリルの状態を分子鎖レベルで解明することを目的とした。 以下の3種の方法で水酸化ナトリウム水溶液に対する溶解を検討した。最初は180℃以上の高温アルカリ処理による方法で検討した。その結果、この方法では溶解速度よりも加水分解の方が先に進行し、ほとんどセルロースの溶解は認められなかった。しかし、この実験より高温におけるセルロースの分解制御が水酸化ナトリウムス水溶液によるのではなく、ケイ酸ナトリウム水溶液によることが新しい知見として得られた。次に、セルロースの溶解性は分子間および分子内水素結合が密接に関係している。しかし、天然セルロース結晶中の水素結合状態や非晶成分がどのような状態で存在するか明らかにされていない。そこで、まず固相ニトロ化反応過程を詳細に研究し、ミクロフィブリル構造について検討した。その結果、非晶はミクロフィブリル全体にランダムに存在すること、高濃度のニトロ化溶媒では酸の拡散によりO6...O2の水素結合を切断できることを明らかにした。この酸拡散による水素結合切断現象を利用して、バクテリアセルロースの水酸化ナトリウム水溶液への溶解性を検討したところ、-80℃の低温で高濃度ニトロ化溶液処理したセルロースはほとんど溶解させることができた。最後に、重合度とアルカリ可溶性との関係について検討するため、硫酸による加水分解処理を行った。この結果、加水分解処理で得られたミクロクリスタルは8%水酸化ナトリウム水溶液に低温において容易に溶解した。今後、重合度と溶解度の関係について検討する予定である。
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