これまでの研究で、細胞質局在型PTPの一つPTP1BがSTAT5aおよびSTAT5bを細胞質内で脱リン酸化することによりプロラクチンシグナリングを負に制御することを示してきた。本年度はPTP1Bと同じサブファミリーに属する核局在型PTPであるTC-PTPに焦点を当てて研究を進めた結果以下のような興味深い知見を得ることが出来た。 TC-PTP発現コンストラクトをRT-PCR法により構築し、プロラクチンレセプター、STAT5a/bと共にCOS7細胞に一過性に導入し、プロラクチン刺激に応じたそれぞれのチロシンリン酸化レベルを抗リン酸化チロシン抗体を用いて調べた。その結果、PTP1Bを共発現させた場合よりは遅れるがSTAT5a/bはTC-PTPにより効率よく脱リン酸化されることを見出した。さらに細胞内での局在を丹念に調べた結果、プロラクチン刺激によりリン酸化を受けたSTAT5a/bが核内に移行してからTC-PTPにより脱リン酸化を受けることが明らかとなり、このことが脱リン酸化を受ける時間の遅れの原因となることが示唆された。さらにTC-PTPを恒常的に発現する乳腺上皮細胞株(COMMA-1D)を樹立してプロラクチンのターゲット遺伝子であるβ-caseinの発現を調べた結果、野生型TC-PTPだけでなく活性中心のシステインをセリンに置換した変異体(C/S変異体)を発現させ場合でも顕著に減少することが明らかになった。これらの結果はTC-PTPは乳腺上皮細胞においてもプロラクチンシグナリングの負の制御因子として機能しうることを強く示唆している。 またTC-PTPはSTAT3を核内で脱リン酸化することによりインターロイキン-6シグナリングを負に制御しうることも見出した。これらの結果はTC-PTPが広くJAK-STAT経路の負の制御因子として作用することを示す重要な知見である。
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