すでに取得していた付着器形成誘導に密接に関ると思われる遺伝子CBPIの解析を行なった。遺伝子の推定産物の前半部分には、植物のキチナーゼやキチン結合性レクチンには存在するが、糸状菌のキチン関連酵素ではまれにしか見いだすことができないキチン結合ドメインが2ヶ所存在し、前半領域全体はキチンデアセチラーゼとの相同性を持っていた。後半領域には長いセリン・スレオニンクラスターが存在し、細胞外マトリクス蛋白やアグルチニンとの共通性が示唆された。相同性が見られたキチンデアセチラーゼから、複数のキチン結合ドメインを持つもの、および、長いセリン・スレオニンクラスターを持つものはこれまでに見いだされておらず、本遺伝子は全体の構造的には新規な遺伝子と考えられ、遺伝子構造だけからその機能を推定することはできなかった。本遺伝子のプロモーター領域にレポーター遺伝子(GFP)を結合し、発現解析を行なったところ、栄養成長菌糸ではほぼ完全に発現が抑制され、胞子、発芽管、付着器のステージでGFPの蓄積が観察された。また、CBPI構造遺伝子の5'側の分泌シグナルと3'側に特徴的に見られるセリン・スレオニンクラスター以降の断片をGFPの両端に接続し、CBPIのプロモーターで発現させたところ、発芽管で特異的な発現が見られるとともに、細胞周辺部への局在化がみられ、3'側の構造が本遺伝子産物の局在化に重要な働きを持つことが示唆された。また、この研究のために、コスミドクローンとトランスポゾンを用いた遺伝子破壊用ベクターの構築法、Inverse PCRによる破壊ベクター構築の両方法を確立し、他の複数の遺伝子破壊体を得ることに成功した。来年度はCBPIのさらに詳細な解析と、他の遺伝子破壊体の形質および、破壊された遺伝子の特徴について研究を進める予定である。
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