本研究では、イネいもち病菌の付着器形成誘導に密接に関与すると思われる遺伝子、CBP1の解析を行った。平成13年度に単離した同遺伝子のプロモーター領域をレポーター遺伝子(EGFP)を用いて解析し、発現特異性の制御に関与する数十bpの制御領域を絞り込むことに成功した。また、部位特異的変異法ならびにレポーター遺伝子との融合タンパクを用いて細胞内局在性を解析し、本遺伝子の特徴的な2つのキチン結合ドメイン、セリン・スレオニンクラスター、C末端のいずれもが本遺伝子の機能発現に必須であることを明らかにした。特にC末端は本遺伝子産物の細胞内局在性に重要な役割を果たしている可能性を見出した。さらに、近縁糸状菌であるアカパンカビとのゲノムの比較により、本遺伝子と共通の部分配列を持つ遺伝子はアカパンカビにも存在するが、遺伝子全域として同等のものを見出すことは出来ず、いもち病菌が植物病原菌として進化する際に既存の遺伝子のリモデリングにより新たに獲得した遺伝子である可能性が示唆された。 また、平成13年度に遺伝子破壊体を作出したMgNCS1という、真核生物で共通に存在し、高度に保存されたNeuronal Calcium Sensor 1(NCS1)タンパクと高い相同性を持つ遺伝子につき解析を進め、同遺伝子が、いもち病菌において高濃度のカルシウムストレス耐性に関与するとともに、低pH耐性にも関わることを示した。他の生物におけるNCS1の機能として、カルシウム関与は既知であるが、pH感受性に関与する例は未報であり、いもち病菌におけるNCS1の機能分化の可能性が示唆された。いもち病菌が感染する植物内は比較的低pHのため、MgNCS1は感染時のpHストレスに対して何らかの機能を果たしているのかもしれない。
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