研究概要 |
モンシロチョウに存在するがん細胞傷害性蛋白質、ピエリシン-1は、分子量約98,000の蛋白質であり、コレラ毒素等のADPリボシル化酵素と相同性を示す。ピエリシン-1は、既知のADPリボシル化酵素と異なりグアニン塩基のADPリボシル化反応を触媒する新規酵素ドメインを有する蛋白質であることが示唆されている。2'-Deoxyguanosineを受容体分子としてピエリシンとNADを加え反応を行ったところ、反応生成物の紫外吸収スペクトルはアデニンとグアニン塩基の結合を示唆していた。JEOL JMS-7000Qを用いてESI-MS解析を行ったところ、分子量は808と推定され、ADPリボシル化dGの推定分子量と一致した。さらに^1H-NMR,^<13>C-NMR,2D-COSY, HMQC解析を行い、その構造をαおよびβ体のN^2-(ADP-ribos-1-yl)-2'-deoxyguanosineであると推定した。続いてこの反応生成物をphosphodiesterase I,ついでalkaline phosphatase処理し、得られた化合物が、別途に合成したN^2-(D-ribofuranos-1-yl)-2'-deoxyguanosineと同一であることをUV, MS, ^1H-NMRを用いて確認し、最終的に反応生成物の構造を決定した。ADPリボシル基の受容体として、2'-deoxyguanosineではなく仔牛胸線由来高分子二本鎖DNAを用い、micrococcal nuclease, phosphodiesterase II, bacterial alkaline phosphataseで分解して得られた付加体DNAの構造が上記反応生成物と同じであることを^1H-NMR等を用いて確認した。この付加体は、ピエリシン-1処理したHeLa細胞のDNAにも存在することを、^<32>p-ポストラベル法により確認した。以上より、ピエリシン-1により細胞内DNAのグアニン塩基がADPリボシル化されて傷害を受けることにより、細胞がアポトーシスを起こすことが推察された。
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