研究概要 |
モンシロチョウに存在するがん細胞傷害性蛋白質、ピエリシンは、分子量約98,000の蛋白質であり、コレラ毒素等のADP-リボシル化酵素と相同性を示す。ADP-リボシル基転移反応のターゲット分子の検索を行うため、ピエリシンとHeLa細胞粗抽出液を^<32>P-NADの存在下反応させ、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後、オートラジオグラフィーを行ったところ、高分子量画分に^<32>Pの取り込みが観察された。しかしながら、この高分子画分は、プロテアーゼによって分解されない一方、ヌクレアーゼに感受性を示した。このことから、ピエリシンのターゲット分子は、これまで知られているADPリボシル転移酵素とは全く異なり、DNAであることが推察された。さらに、塩基配列との関連を調べたところ、グアニン塩基の存在と取り込み量が強く相関していた。2'-Deoxyguanosineを受容体分子としてピエリシンとNADを加え反応を行い、反応生成物の紫外吸収スペクトルおよびESI-MS解析を行ったところ、ADPリポシル化dGであることが示唆された。さらに^1H-NMR,^<13>C-NMR,2D-COSY, HMQC解析を行い、その構造をαおよびβ体のN^2-(ADP-ribos-1-y1)-2'-deoxyguanoslneであると推定した。続いて別途合成を行い、最終的に反応生成物の構造を決定した。ADPリボシル基の受容体として高分子二本鎖DNAを用いた場合でも、グアニン塩基の同じ位置がADPリボシル化されることを^1H-NMR等を用いて確認した。この付加体は、ピエリシン-1処理したHeLa細胞のDNAにも存在することを、^<32>P-ポストラベル法により確認した。以上より、ピエリシン-1により細胞内DNAのグアニン塩基がADPリボシル化されて傷害を受けることにより、細胞がアポトーシスを起こすことが推察された。
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