アクチン調節タンパク質ゲルソリンは、重合核形成によるアクチン線維伸長の促進(Nucleating)、アクチン線維の切断(Severing)およびその末端の保護(Capping)という3つのアクチン重合調節機能を持つ。これらの活性はカルシウムにより正に、ホスファチジル・イノシトールリン脂質によって負に、厳密に制御されており、ゲルソリンはこれらの両面性の機能を通じて重合一脱重合という両局面を制御して、細胞運動において重要な役割を担っている。ゲルソリンの細胞内局在に関しては、間接蛍光抗体法や蛍光プローブで標識したゲルソリンをマイクロインジェクションして観察した得られた結果が報告されている。しかし従来の方法では、生きた細胞内で活性化され機能しているゲルソリンを捉えたものではなく、さらなる検討の余地が残されている。本研究ではメンブラン・ラッフリングといったダイナッミクな形態変化を伴う細胞運動において、細胞内で実際に機能しているゲルソリンの動態を蛍光共鳴エネルギー移動(Fluorescence Resonance Energy Transfer ; FRET)を応用し、可視化することを目的とする。 平成14年度は、オワンクラゲの蛍光タンパク質GFPの誘導体であるECFPとEYFPをN末端とC末端にそれぞれ融合したマウス・ゲルソリン(CGY)がin vitroにおいてゲルソリン機能を保持しているかどうかを検討中するために、大腸菌の系での発現ベクターを構築して、その大量発現、およびその精製を試みた。しかし発現した融合タンパク質の大部分が不溶性画分に回収されin vitroにおける解析が困難であった。そこで、ゲルソリン・ノックアウトマウス由来の線維芽細胞にリポフェクション法により細胞内へ導入して得られたCGY発現細胞の性質を野生型マウス由来の線維芽細胞と比較した。その結果、ノックアウトマウス由来の線維芽細胞で認められた細胞移動速度の低下が、CGY発現細胞では野生型マウス由来の線維芽細胞と同程度に回復していた。また、メンブラン・ラッフリングが生じる細胞辺縁部では細胞核付近に比較してEYFPの蛍光強度が低下していた。したがって細胞の中心部では、FRETが起こっており、細胞辺縁部ではFRETの程度が低下し、ゲルソリンが活性化していると考えられた。
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