胎生下垂体における成長ホルモン(GH)細胞の機能的成熟、すなわちGHやGHRH-受容体(GH放出ホルモン受容体)の発現開始の引き金となっているのがグルココルチコイドであるということを我々は様々な実験系で示してきた。しかし、GHRH-受容体の発現にはグルココルチコイド受容体が直接転写因子として機能していることがわかっているものの、GH発現誘導に関してはグルココルチコイドの作用を仲介する物質の存在が想定され、この分子の同定と作用機序の解明が問題であった。本研究ではグルココルチコイドの作用仲介物質としてのC/EBPδの機能を調べた。 ラットGHプロモーター(翻訳開始点の上流約1700塩基)はMtT/S細胞においてルシフェラーゼを発現させ、この発現量はC/EBPδを共発現させることにより約3倍に上昇した。プロモーターを300塩基に短縮してもC/EBPδの活性は変化なかったので、C/EBPδの結合部位は翻訳開始点の上流300塩基までの領域にあると推定された。C/EBPαはδと同様GHプロモーターの活性を上昇させたが、その作用はδよりも弱かった。またβはプロモーター活性を低下させた。また、C/EBPδの作用は下垂体特異的転写因子であるpit-1の存在を必要としなかった。このような結果はGH遺伝子の転写調節にC/EBPδが関わっていること、さらにC/EBPδはGHプロモーターの翻訳開始点の上流300塩基までの領域に結合し、pit-1とは独立したメカニズムによりラットGH遺伝子の転写を調節していることが考えられる。これに対してヒトGH遺伝子のプロモーター活性(翻訳開始点の上流1600塩基)に対してC/EBPδは転写促進効果を示さなかった。ヒトではC/EBPδの結合部位がさらに上流に存在するか、或いはC/EBPδはヒトのGH遺伝子転写には関与しないのかもしれない。 (注)pit-1に関しては、平成14年度科学研究費補助金実績報告書に記載の結果と異なる結果がその後の実験により得られたのでこれを本報告書に記載した。
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