これまで細胞膜は均一なリン脂質の二重膜からなると考えられていたが、最近では多様な脂質成分からなるモザイク状の集合体であることが解ってきた。特にコレステロールとスフィンゴ脂質に富んだ膜微小領域は脂質ラフトと呼ばれ、種々のシグナル伝達分子が集合・離散する一時的な集積場として注目を集めている。 本研究では細胞表面の脂質ラフトと細胞内要素をリンクする構造について、オカダ酸とPEG-コレステロール処理により誘発される細胞質球状突起を手がかりとして解析を行った。 その結果、K562細胞に球状突起を誘発すると、細胞表面では脂質ラフトのマーカーであるコレラトキシンやCD59が同部に集合し、細胞内ではアクチン細線維とともに、束状化した中間径フィラメント、ミトコンドリア、およびエンドゾーム由来と思われる小胞の集合が認められた。また、特異抗体により細胞表面のCD59分子をクロスリンクすると、PEG-コレステロール処理なしでも球状突起が誘発された。また、オカダ酸処理細胞を機械的に変形させることでも、球状突起が形成された。これらの球状突起の形成はアクチンの自由なG-F変換を阻害するラトランキュリンBやジャスプラキノリドで阻害され、fyn-ノックアウトマウスより得られたT細胞では球状突起形成が起こらなかった。これらの結果より、オカダ酸とPEG-コレステロールで処理したことによる脂質ラフトの凝集が、アクチン細線維を介して細胞内に何らかのシグナルを伝達していると考えられた。本研究の成果として、脂質ラフトが細胞骨格系と密接な関係を持っていることが示唆され、それが球状突起形成という明らかな細胞形態の変化として現れることより、この現象は脂質ラフトを介したシグナル伝達のよい指標となりうることがわかった。
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