ヒト組織由来の培養老化細胞を用いた核内輸送機能の解析モデルの構築を行った。一連のGFP-標識蛋白質の発現ベクターを老化細胞及び若い細胞にトランスフェクションし、その核内及び細胞質局在を比較した。皮膚組織由来の老化細胞では、転写調節因子であるp53及びc-FosなどのGFP融合蛋白質は主に細胞質に蓄積するが、若い細胞では顕著に核内へ輸送される。p53及びヒストンの輸送因子としてkaryopherinαが知られている。核内輸送において重要な核輸送リセプター分子karyopherinに注目し、老化細胞における機能を解析した。染色体の構造的構成蛋白質として重要なヒストンH2BのGFP融合蛋白の発現、及びその核内輸送は、若い細胞では活発であった。しかし老化細胞においてもヒストン-GFPの合成は活発であり、その核への輸送も低下していなかった。従って老化細胞において、karyopherinαはヒストンH2Bの核内輸送に十分機能している。そしてp53の核内輸送の低下は、karyopherinαの発現不良や機能抑制によるものでないと考えられる。本研究代表者は、細胞老化が細胞骨格ビメンチンの増加、及びp53蛋白のビメンチンへの結合を促進すること、即ち細胞質局在が老化細胞では顕著であることを明らかにしている(平成12〜13年度基盤研究C-1)。老化細胞においてp53とヒストンH2Bの核内輸送の動態が一致しないので、p53の核内輸送阻害の原因がkaryopherinαの発現不良や機能阻害によるものでなく、p53分子の細胞骨格への結合によるものであることが強く示唆された。現在、karyopherinα及びβ、ヘリケース、核外輸送因子CRM1等のGFP標識蛋白発現ベクターを作成している。 また発現に用いる老化細胞モデルとして、通常用いられる継代培養法による老化細胞の作成は長期間の培養が必要なこと、長期間の細胞保存が困難、細胞の安定性に関してデメリットがあるなど解決するべき問題点が確認された。本研究を通して、安定な老化細胞モデルの作成が必要であることが判明し、安定な老化細胞モデルとして老化形態及び活性酸素分子種の増加などの老化形質を随時誘導可能な細胞モデルを考案した。
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