我々はマウス精子幹細胞の移植効率を高めることが不妊症を回復するために必要だと考え、2つのアプローチを取った。一つは移植を行うステージを変えてみることである。従来の精子幹細胞移植においては成体のマウスをホストに使い、その不妊の回復を試みていたが、本研究においては生後5-10日齢の仔の精巣に移植を試みた。これは、このステージの精巣のセルトリ細胞(精子形成を直接支える体細胞)がまだ分裂しており、セルトリ細胞間のtight junctionも形成されていないために移植後の幹細胞のseeding efficiencyが上昇すると考えたためである。 実際の移植の結果によると未熟ホストマウスを用いた場合は、幹細胞の移植効率が約10倍上昇することが分かった。またこのホストマウスの不妊回復能を見るために雌マウスと掛け合わせると80-100%のマウスが仔を作る能力を持っていることが分かった。更に不妊回復までの期間も約70日と、これまでの成体のホストへの移植の場合に比較して(最低150日かかる)、格段に短期間に短縮することができるようになった。 第二のアプローチとしては、我々は未熟精巣に対してモノクローナル抗体の作成を試みている。未成熟精巣(生後5-7日齢)には幹細胞を含む未分化な精原細胞が濃縮されており、この精巣全体をラットに免役することで幹細胞を認識する抗体を確立しようというものである。精子幹細胞移植を用いた実験結果から、あるクローン(#9)を用いると幹細胞の濃縮率は5倍以上に増え、幹細胞を認識することができることが分かった。現在はその分子構造の決定を試みている。
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