各種糖脂質に対する特異性の高いモノクローナル抗体を用い、光顕および電顕レベルで組織化学的検討を行った。ラット各臓器(小脳、小腸、大腸、腎等)をアルデヒド混液にて固定した後、凍結切片もしくは未凍結切片を作製し、各種糖脂質に対する特異抗体にて1〜3日間処理した。蛍光標識二次抗体もしくはHRP標識二次抗体処理を経てそれぞれ光顕、電顕観察した。未凍結切片を用いた光顕観察では、小脳良質において、抗GQ1b、抗GT1b等により、プルキンエ細胞の細胞体と樹状突起が染色された。また抗GQ1bでは、プルキンエ細胞体表面に顆粒状の陽性反応が認められ、電顕的には神経終末のシナプス膜とシナプス小胞であった。また、プルキンエ細胞体内の陽性部位は、電顕的にゴルジ装置中間層〜trans領域であり、この部位が糖脂質の形成部位と考えられた。また、ラットを予め糖脂質合成阻害剤(フモニシンB1)にて処理しておくと、糖脂質は、プルキンエ細胞内では減少するものの、プルキンエ細胞周囲へは著しく蓄積することが認められた。糖脂質抗体と神経伝達物質特異抗体との二重標識を行うと、例えば、抗GABA抗体は、抗GQ1bの陽性部位とよく対応したが、抗GT1bの局在とは対応せず、神経伝達機能に糖脂質が特異的に関連している可能性が示唆された。また、小脳以外では、腸管上皮、腸管神経叢、腎遠位尿細管上皮、腎糸球体等にも特定の糖脂質抗体による陽性反応が認められた。特に小腸では、抗GM1と抗GD2が神経叢や外縦筋層に、抗Gb3グロボシドが腸腺上皮の細胞膜に特異的に分布していた。糖脂質は従来知られている以上に各臓器に広範に分布し、組織化学的手法が各種細胞機能を解析する上で有力な手段になると期待される。
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