我々は、胎生期の血管内皮細胞が産生する細砲外器質蛋白Del1の機能を明らかにするため、サイトメガロウイルスのプロモーターを使用してDel1の強制発現マウスを作製した。本マウスの解析によりvasculogenesisからremdelingにおける過程でDel1の果たす役割を明らかにすると共に、血管の分岐形態の決定機構についての有意義な考察を加えることが出来た。 巨視的な観察により、腸管膜の血管系に異常を発見した。野生型の口側腸管膜の血管は、長い幹と短い枝を持った熊手様の形態をしている。しかし、Del1強制発現マウスでは、他の組織に見られるような樹枝状の分岐形態をしていた。さらに、腸管の長さには差がないにも関わらず、腸管膜血管の全長は著明に減少していた。胎児期における腸管膜血管の発生を観察することにより、これらの血管の異常の原因はvasculogenesis後のremodelingの亢進であることが推察された。 Del1強制発現マウスの観察により、血管の分岐形態が単純にDel1遺伝子により決定されるわけではないことも明らかになった。なぜなら、血管分岐の個体差は大きく、一つとして同じものはなかったからである。すなわち、腸管膜血管の分岐形態は、総血管長が遺伝子により決定されると、その枠の中で別のルールに従って決められると考えられた。個体差が大きいことは、そのルールがあまり厳密にではなく、機能上の問題が起きない程度に形態形成を制御していることを示唆している。
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