動脈硬化症をめぐる血管学の中心的課題は、血管新生を誘導することであった。この課題は、VEGFやその他の血管増殖因子の発見と、遺伝子導人技術の進歩によって実現されようとしている。しかし、現段階では誘導される新生血管は異常な細血管の固まりであり、充分な血流を得ることができない。この分野での目標は単なる血管新生から、より有効な循環を可能にする「より良い血管」の新生へと移行しつつある。 本研究の課題は、血管内皮細胞が産生する細胞外器質蛋白Dellの発生時での機能を明らかにすることであった。我々はそのためにDell過剰発現マウスを作製し、血管系について解剖学的な検討を加えた。その結果、Dellを過剰に発現するマウスの腸管膜では、その血管の分岐形態に異常が発見された。野生型マウスの空腸を支配する血管は、腸管膜根から分岐する太い血管の遠位部から数本の枝が分岐する熊手に似た形態をしている。しかし、Dell過剰発現マウスでは、木の枝のように次々に分岐を繰り返す樹枝状の形態をとっていた。Dell過剰発現マウスの血管分岐形態が変化した機序を明らかにするため、発生過程の腸管を観察した。腸管膜血管の発生では、原始的血管叢が形成された後に細血管が整理されることにより成人型の血管に整形される。Dell過剰発現マウスでは、その過程が亢進しており、その結果として成人の血管分岐形態が変化すると考えられた。以上の結果からDellは細血管を整形し、成人型の太い血管を形成するのに関与していると考えられた。 より生理的な血管の新生が求められる中、Dellの血管整形作用の発見は重要な意味を持つと考えられた。
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