造血微小環境は、ストローマ細胞と総称される間質系細胞より構成され、液性造血因子あるいは機能的接着因子を介した造血促進機能を有する一方で、異常クローンの排除といった監視機構を含めた造血抑制機能を有し、促進、抑制両者がバランスよく機能することにより、正しい造血現象が維持されていることが理解されるようになった。この抑制的機能については従来全く未知の領域であったが、近年初めて造血組織における血球細胞のプログラム死(アポトーシス)誘導機能の存在が明らかとされた。 この抑制的機構の検討を目的として、平成13年度は、人工骨髄培養法を用いた本研究により、血球細胞のアポトーシス誘導現象が試験管内でも生体同様に再現されること、その主役がストローマ細胞であることを明らかとした。さらに分化マーカーを用いて純化した血球細胞を標的細胞として検討した結果、ストローマ細胞は液性因子の産生、あるいは接着因子を介した二つの作用機序により、造血幹細胞の分化、増殖過程において血球細胞のアポトーシスを誘導することが示された。ことにstem cell disorderである骨髄異形成症候群(MDS)において、ストローマ細胞のアポトーシス誘導機能が活性化されており、本機構が異常造血細胞クローンの増殖抑制に関与していることが明らかとなり、MDSの病態形成の解析につながる結果としてさらに詳細を検討中である。 接着因子を介したアポトーシス誘導メカニズムとして、ストローマ細胞膜上の膜結合型TNFαの関与が示唆され、その発現機構について検討が進行中である。一方、液性因子として、環状構造を持つ乳酸化合物がストローマ細胞の培養上清より分離され、現在その構造の詳細を検討中である。また本因子が解糖系を阻害することにより細胞増殖の抑制作用を有する結果が得られ、解糖系阻害とアポトーシスとの関連についてさらに解析を進めている。
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