平成13年度実験計画を一部見直し、成体の創傷治癒過程における血管発生様式による新生血管形成機序と血管内皮前駆細胞の分化過程の形態学的解析に焦点をしぼった。1)沸騰水中で100℃に加熱した金属円柱(真鍮製)を深麻酔下の成熟ラット背部に一定時間接触させて実験的熱傷モデルを作成し、同一固体から経時的に熱傷受傷部組織を採取して試料とした。2)加熱金属柱の接触時間を1分間に設定したところ、表皮から皮下組織浅層に及ぶ3度の熱傷(deep burn)モデルが再現性を持って作成された。3)受傷後2時間では、熱傷部真皮毛細血管内の血液凝固亢進が観察され、6〜12時間後には表皮から真皮全層に亘る硝子様変性および壊死が進行し、1〜2日後には、受傷部近傍の毛細血管拡張が観察された。3〜5日後には表皮基底層の熱傷部への伸展と、真皮健常部から壊死部への毛細血管の伸展が観察された。毛細血管の伸展部先端には真皮由来の線維芽細胞が集合し、細胞質突起で互いに、あるいは既存の毛細血管内皮細胞と接触しながら策状構造をとり、その多くは血管内皮前駆細胞のマーカーであるVEGF受容体免疫陽性反応を示した。これらの細胞の一部は、Weibel-Palade小体を含有し、第8因子関連抗原免疫陽性反応を呈していた。以上の結果から、今回の熱傷治癒モデルにみられる新生血管の形成機序は血管発生(vasculogenesis)の様式によることが確認された。平成14年度は同モデルの血管発生機序において、血管内皮前駆細胞から血管内皮細胞のどのphenotypeにおいてエンドセリン(ET)-1およびET変換酵素が発現するかについて免疫細胞化学および分子細胞化学的解析を施行する予定である。
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