研究概要 |
マウス胚性幹細胞(ES細胞)は心臓を含め全ての細胞へ分化可能である。本研究ではES細胞から心筋へ分化過程に於ける興奮-収縮連関の機能発現機序解明を目的とする。ES細胞Cell line D3から心筋への分化誘導を確立し、分化の各ステージに於ける細胞内Caシグナル伝達系路を解明するために、遺伝子解析、コンフォーカルレザー顕微鏡を用いたCa蛍光測定、クールドCCDカメラを用いた細胞内Naの蛍光測定、パッチクランプ法による電気生理学的実験を行った。それらの結果より、未分化のマウスES細胞では小胞体からのCa放出はG-protein coupled receptorsの刺激により小胞体IP3受容体を介してCaが放出される機構が確認された(IP3-induced Ca release : IICR)。この時期にはIP3受容体のサブタイプI, II, IIIの全ての遺伝子発現が認められた。一方、リアノジン受容体と電位依存性Caチャネルの機能は全く認められず、ES細胞においては未分化の時期にはCa-indnced Ca release(CICR機構)は機能していないことが判明した。細胞膜のCa流入経路としては容量性Ca流入経路が認められた。細胞膜のCaポンプ及びNa-Caの両者は既に機能しており、細胞内Caのくみ出し機構として作動していた。Na-Kポンプは低濃度のウワバインには抑制効果は小さく、心筋タイプのポンプは機能的には発現していないことが判明した。これらのCaシグナル伝達系は心筋への分化過程でどのように推移するのかの検討を行った。IICR機構は分化の全過程で認められ、心筋に分化後にも機能していた。CICR機構は分化の後半約7日後には確認あされた。この時期には電位依存性CaチャネルのLタイプ、Tタイプの両者が認められた。また、低濃度のウワバインによるNa-Kポンプの抑制も求められた。これらの結果より、心筋への分化過程に於ける細胞内Caシグナル伝達経路を初めて明らかにする事が出来た。しかし、本研究では分化の全ステージでのより詳細な検討は未だ不十分であり、今後、引き続き研究を続ける必要があると考える。
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