研究概要 |
【序】生体の約70%は水であるが,その水は単なる溶媒ではなく核酸やタンパク質など重要な生体高分子が生理機能を発現するための重要なサポーターである。そのような生体組織内の水は生体高分子との相互作用の程度の相違によって「不凍水,束縛水(両者を合わせて結合水と総称),自由水」という状態に区別される。 本研究の目的は,「結合水」をMR画像上で可視化することによって,間接的であるが生体高分子の機能を可視化しようとするものである。今年度はそのための基礎研究として,鎖状合成高分子ゲル内の「自由水」と「結合水」の正確な比率を示差走査熱量計(DSC)によって測定するとともに,高分子ゲルのMR画像コントラストとの対応も検討した。 【材料と方法】研究試料として,親水性モノマーであるN-ビニルピロリドン(N-VP),疎水性モノマーであるメチルメタクリレート(MMA),その中間の性質をもつ2-ヒドロキシメタクリレート(HEMA),グリシドリルメタクリレート(GMA)より成る鎖状合成高分子ゲルを対象とした。研究方法として,ゲル内の自由水/結合水の比率はDSC装置を,MR画像は1.5テスラ臨床用MR装置を用いた。MR画像はラジオ波照射による磁化移動コントラスト法(MTC)で得た。 【結果と考察】親水性の強い基材モノマーより構成されるゲルで含水率が60%以下のものでは,結合水の割合が大きかった。疎水性の強い基材モノマーより構成されるゲルでは,含水率の相違に関わらず,結合水の割合はほぼ一定であった(そのうちの大部分は不凍水)。照射部位が水シグナルに近いMTR画像コントラストに対し,結合水のうちでも特に束縛水の関与が大きい傾向にあった。磁化移動(MT)効果に対しては,親水性の強い基材モノマーから構成されているゲルほどMT効果が大きかった。またモノマー構成が同一のゲルでも試料全体の含水率が低くなるほどMT効果が大きかった。今回の結果から,結合水のうちでも特に束縛水の存在はMR画像コントラストに対して重要な因子であり,今後生体系への応用研究に対しても重要な知見が得られた。
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