研究概要 |
モルモット心臓から酵素処理により得られた単離心房筋細胞に全細胞型パッチクランプ法(whole-cellpatch-clamp mode)を適用して,イノシトールリン脂質による緩徐活性型遅延整流性K^+チャネル電流(l_<Ks>)の調節機構の解析を行った.細胞灌流液には急速活性型遅延整流性K^+チャネル電流(l_<Ks>)の阻害剤であるE-4031(5μM)を加えて実験を行った.l_<Ks>は保持電位-50mVから種々の膜電位に脱分極パルスを与えて活性化し,活性化の程度は-50mVに再分極したときに発生する末尾電流(tail current)の大きさで評価した.今年度の研究により得られた実験結果は以下の通りである. 1.高濃度のwortmanninはPI4-キナーゼをブロックすることにより細胞膜のホスファチジルイノシトール4,5-二リン酸(PIP_2)量を減少させることが知られている.Wortmannin(50μM)をパッチ電極を介して細胞内に負荷するとl_<Ks>の大きさは約2倍に増大した. 2.PIP_2(100μM)を細胞内に負荷するとl_<Ks>の大きさは約1/3に減少した. 3.抗PIP_2抗体(30nM)を細胞内に負荷するとl_<Ks>の大きさは約2倍に増大した. 4.細胞膜PIP_2のもつ負電荷を中和するAl^<3+>(50μM)やneomycin(50μM)を細胞内に投与するとl_<Ks>の大きさは約2倍に増大した. これらの実験結果により,モルモット心房筋細胞のl_<Ks>は細胞膜PIP_2により抑制性の調節を受けており,それにはPIP_2のもつ負電荷が関わっている可能性が示唆された. 現在,PIP_2によるヒトのl_<Ks>の調節に関わる構造基盤を明らかにする目的で,KCNQl遺伝子+KCNEl遺伝子,もしくはKCNQl遺伝子を導入した培養細胞(COS7,CHO)にパッチクランプ法を適用して,上記の1.〜4.の項目について検討を行っている.
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