研究概要 |
平成13年度の本研究課題において,単離モルモット心筋細胞の緩徐活性型遅延整流性K^+チャネル(I_<Ks>)は細胞膜構成リン脂質であるホスファチジルイノシトール4,5-ニリン酸(PIP_2)により抑制性の調節を受けていることを明らかにした.本年度(平成14年度)はこの細胞膜PIP_2によるI_<Ks>の抑制性調節機構の生理的意義を明らかにする目的で,単離モルモット心房筋細胞に全細胞型パッチクランプ法(whole-cell patchclamp mode)を適用して実験・検討を行った.今年度の研究により得られた結果は以下の通りである. 1.細胞外ATP(50μM)によるP2Y受容体刺激はI_<Ks>に対して増大作用をおよぼすが,パッチ電極を介して細胞内にPIP_2(100μM)を負荷すると細胞外ATP(50μM)によるI_<Ks>の増大作用は著明に減少した. 2.一方,PI-4 kinaseを抑制し細胞膜PIP_2含量を減少させる目的で細胞内に高濃度(50μM)のwortmamminを投与するとI_<Ks>が増大するが(平成13年度結果),この増大反応の後に細胞外ATP(50μM)を投与しても,I_<Ks>の増加は有意に減少した. これらの実験結果により,P2Y受容体刺激によるI_<Ks>の増大反応にはP2Y受容体-Gq-ホスホリパーゼC(PLC)の活性化による細胞膜PIP_2の消費・減少が第一義的に関わっていると考えられる. 3.細胞内に3価の陽電荷をもつスペルミジンや4価の陽電荷をもつスペルミンを投与すると,I_<Ks>が徐々に増大していった.スペルミジンやスペルミンなどの低分子塩基性物質であるポリアミンは細胞膜PI(4,5)P_2のもつ陰性荷電と電気的に結合する可能性が示唆されているため,本実験結果は,細胞内ポリアミンが細胞膜PI(4,5)P_2の陰性荷電と電気的に結合することによって,PI(4,5)P_2のもつI_<Ks>チャネルに対する抑制作用をブロックした可能性を示唆する. このように,細胞膜PIP_2によるI_<Ks>の抑制性調節機構は神経伝達物質やさらには細胞内物質によるへI_<Ks>の調節に密接に関わっている可能性が示唆された.
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