研究概要 |
知覚神経特異的Naチャネル(sensory neuron-specific Na channel : SNS,便宜上,それによって引き起こされるNa電流も含めてSNSとよぶ)は,末梢知覚神経節の小型侵害受容ニューロンにのみ特異的に発現しているため,以前から痛覚情報の伝搬に重要な役割を担っているNaチャネルであると考えられてきた.私たちはSNS遺伝子をノックアウトしたマウスを作製し,その変異動物におけるNaチャネル機能や痛覚感受性の変化を検討した. 末梢知覚神経節の神経細胞に発現するNaチャネルのうち,NaV1.8,NaV1.9は侵害刺激情報を伝搬すると考えられる小型細胞に特異的に分布している.NaV1.8により引き起こされる電流は遅いカイネティクスでTTX非感受性のSNSであるが,NaV1.9の機能発現は成功せず機能は不明のままであった.SNSノックアウトマウスでは,SNSが完全に欠如しており,加えて新たなTTX非感受性Na電流であるNaV1.9によるNaNが観察された. NaNの特徴をまとめると,1)SNSと同様,TTX非感受性であり,C線維を発する小型知覚神経節ニューロンに特異的に発現する,2)活性化閾値が他のNaチャネルより約20mV程度過分極側へシフトしており,SNSよりさらに遅いカイネティクスをもつ"持続型"Na電流であり,閾値下の興奮性を制御している,3)その発現レベルが何らかの栄養因子により影響を受けダイナミックに変化する"誘導型"Naチャネルである,4)チャネルの活性化が細胞内環境の変化により著しい影響を受ける,などが挙げられる.これらの性質は,SNSと同様にNaNが侵害刺激の伝搬に関与している可能性を示唆するとともに,神経線維における興奮性の異常亢進や神経損傷に伴うチャネルの発現異常などの神経因性疼痛の病態生理に関連しており,これらTTX非感受性Naチャネルが神経因性疼痛をはじめとする各種疼痛の発現において重要な役割を演じていることを裏づけるものである.
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