研究概要 |
ミトコンドリアATP感受性K^+(mitoK_<ATP>)チャネルによる虚血心筋保護のメカニズムを解明するため,mitoK_<ATP>チャネルの活性化がミトコンドリア内Ca^<2+>過負荷を軽減するか否か検討した。ラット心室筋細胞をコラゲナーゼ処理により単離し実験に供した。ミトコンドリア内Ca^<2+>濃度を測定するためにCa^<2+>感受性蛍光色素であるRhod-2-AMを,ミトコンドリア内膜電位の変化を測定するために膜電位感受性色素であるJC-1をそれぞれ心筋細胞にloadingした。蛍光強度は共焦点レーザー顕微鏡を用いて測定した。心筋細胞にouabain(1mM)を作用させると,ミトコンドリア内Ca^<2+>濃度は時間経過とともに増加し30分後には投与前の173±16%に達した。MitoK_<ATP>チャネル開口薬であるdiazoxide(100μM)存在下にouabainを作用させた場合,30分後のミトコンドリア内Ca^<2+>濃度は投与前の131±10%まで有意に抑制された。このdiazoxideの効果はmitoK_<ATP>チャネル遮断薬である5-hydroxydecanoate(5-HD,500μM)により完全に消失した。一方,ouabain存在下にdiazoxideを作用させた場合,ミトコンドリア内膜電位が投与前の89±2%まで有意に減少した。この変化は5-HDにより消失した。すなわち,mitoK_<ATP>チャネルの活性化によりミトコンドリア内膜電位が脱分極することが明らかとなった。以上より,mitoK_<ATP>チャネルが活性化されるとミトコンドリア内膜電位が脱分極し,ミトコンドリア内へのCa^<2+>流入が抑制されて心筋保護作用を発揮することが示唆された。 共同研究者の中谷は,細胞膜ATP感受性K^+(surfaceK_<ATP>)チャネルの構成サブユニットであるKir6.2をノックアウトマウスでは,mitoK_<ATP>チャネルが存在しているにも拘らずプレコンディショニングによる心筋保護効果が消失することを明らかにした。そこで,Kir6.2ノックアウトマウスの心室筋細胞を使ってミトコンドリア内Ca^<2+>濃度を測定した結果,diazoxideがミトコンドリア内Ca^<2+>過負荷を軽減することが明らかとなった。これらの異なる結果は,心拍数が多いKir6.2ノックアウトマウスでは,surfaceK_<ATP>チャネルが機能せずに活動電位持続時間が短縮しないと細胞外からのCa^<2+>流入によるCa^<2+>過負荷が惹起されてしまうため,mitoK_<ATP>チャネル活性化によるミトコンドリア内Ca^<2+>過負荷軽減だけでは心筋保護作用を発揮できないことが原因であると考えられる。
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